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最高裁判所第一小法廷 昭和41年(オ)211号 判決 1969年12月04日

上告人

日野原久生

代理人

古谷判治

被上告人

北九州市

代理人

西村文次

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人古谷判治の上告理由第一ないし第四及び第六について。

原審の確定した事実によれば、本件土地はもと訴外亡桝谷音三の所有に属したが、昭和六年一二月三日旧八幡市の市道用地として国に贈与され、その後昭和六、七年頃国の機関として旧八幡市長が旧道路法に基づき市道として路線の認定をし、同八年頃道路としての供用開始の告示がされて、道路として使用が開始され、同二七年一二月五日新道路法施行により、旧八幡市長によりあらたに新道路法に基づく市道の認定がされた結果、本件土地は市道として旧八幡市の営造物となつた。その後、同三八年二月一〇日旧八幡市が合併により北九州市となり、本件道路はその営造物となつた。しかるに、訴外亡桝谷音三より本件土地の贈与を受けてその所有権を取得した国は、所有権取得登記を了していなかつたので、本件土地に関しては、昭和一〇年一一月二四日右音三の死亡により訴外亡桝谷晴弘が家督相続によりその所有権を取得し、同二三年七月一一日右晴弘の死亡により訴外桝谷秀彦が相続によりその所有権を取得し、同三〇年二月一五日訴外杉原清一郎が右秀彦より買い受けて所有権を取得し、同年八月一三日訴外東亜商事株式会社が右杉原より代物弁済によつて所有権を取得し、各その旨の所有権取得登記を経たうえ、同三八年四月一六日上告人が右訴外会社より譲渡を受けてその所有権を取得し、所有権取得登記をも了したというのである。

ところで、道路法に定める道路を開設するためには、原則として、まず路線の指定または認定があり、道路管理者において道路の区域を決定し、その敷地等の上に所有権その他の権原を取得し、必要な工事を行なつて道路としての形体をととのえ、さらに、その供用を開始する手続に及ぶことを必要とするものであつて、他人の土地について何らの権原を取得することなく供用を開始することが許されないことはもちろんであるが、上記の手続を経て当初適法に供用開始行為がなされ、道路として使用が開始された以上、当該道路敷地については公物たる道路の構成部分として道路法所定(道路法四条、旧道路法六条)の制限が加えられることとなる。そして、その制限は、当該道路敷地が公の用に供せられた結果発生するものであつて、道路敷地使用の権原に基づくものではないから、その後に至つて、道路管理者が対抗要件を欠くため右道路敷地の使用権原をもつて後に右敷地の所有権を取得した第三者に対抗しえないこととなつても、当該道路の廃止がなされないかぎり、敷地所有権に加えられた右制限は消滅するものではない。したがつて、その後に当該敷地の所有権を取得した右の第三者は、上記の制限の加つた状態における土地所有権を取得するにすぎないものと解すべきであり、道路管理者に対し、当該道路敷地たる土地についてその使用収益権の行使が妨げられていることを理由として、損害賠償を求めることはできないものといわなければならない。

それゆえ、原審が、国は本件土地の所有権の取得をもつて上告人に対抗することができず、ひいて被上告人も本件土地の使用権原をもつて上告人に対抗しえないけれども、上告人は、道路法の規定に基づき私権の行使を制限された状態において本件土地所有権を取得したものにすぎず、被上告人に対し損害賠償請求権を有するものでない旨判断したことは、原審の確定した前示事実関係に照らせば、正当としてこれを肯認することができ、原判決に所論のような法令違反の違法は認められない。

また、所論は違憲をいうが、前掲説示のとおり、上告人が取得した本件土地所有権は、道路敷地として道路法による制限が加えられた状態の所有権であり、上告人が取得した後あらたな制限が加えられたものではないから、上告人は、本件道路敷地について、それが道路敷地として使用されることによつて補償を請求することができる損失を蒙つたものと解することはできない。それゆえ、補償請求権のあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠き採用のかぎりでない。

同第五について。

道路法九一条の規定が道路予定地に関する規定であることは原判決の判示するとおりであり、この規定をもつて、所論のような補償をまで予想した規定であるとすることはできない。所論の点に関する原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はなく、論旨は理由がない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(大隅健一郎 入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠)

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